歯の矯正を勧められたときに 髙橋滋樹

全国の矯正歯科専門開業医で組織される公益社団法人日本臨床矯 正歯科医会によれば、同会が受ける矯正歯科なんでも相談に対する問い合わせが、近年急増しているとのことです。

その相談内容を見ると、本来は矯正治療の担当医に相談すべきものをネットで相談してしまっていというようなものもありますが、 一方で、治療方針や方法が不適切な事例が多いことを感じます。学校検診の現場でも、「どうしてこのような方法で矯正治療を行っているのだろう?」と疑問に思うことが少なくありません。

同じく公益社団法人日本臨床矯正歯科医会の数年前の調査で、矯正治療の抜歯治療の比率は、六十パーセント弱であるという報告があります。
でこぼこの歯並びをきれいに整える矯正治療には、抜歯
一:歯が並ぶ顎が小さい場合 二:歯そのものが大きい場合 三:顎も小さく、歯も大きい場合の三つです。

最近は、床矯正とか拡大床という装置を使用して、小学校低学年や幼稚園から矯正治療を始めることを勧める歯科医院もあるそうです。今から矯正をすれば、抜歯をしなくてすむというような説明をされることもあるようです。もちろん、このような装置で良い結果が出ることもありますが、学校検診においても、例えば、拡大床を不適切に使用したことによると思われる噛み合わせの崩壊を目にすることがあり、非常に残念です。 

このような噛み合わせの悪化は、先に述べた、でこぼこができる三つの原因を考えれば、理解は容易です。顎が小さい場合は、顎を大きくすれば原因は解決しますが、 歯が大きい場合は、顎を通常の大きさよりも大きくしなければ、歯はきれいに並びません。このように過剰な拡大をしてしまうと、上下の噛み合わせが合わなくなったりします。歯がきれいに並んでも、噛み合わせが悪くなってしまっては、治療の意味はありません。

床矯正や拡大床など、でこぼこの改善のために顎を大きくする目的で使う装置は、小学校低学年程度から使うことが多いですが、実際にはその後三番目、四番目の永久歯が生え変わる時期に向けて、顎の幅は自然に大きくなります。 
拡大床を使わなくても、顎はこの時期に大きくなるのです。前歯が四本生えた頃のでこぼこの歯並びが、顎の成長とともにある程度解消するというのは、よく見る現象です。

前述した公益社団法人日本臨床矯正歯科医会の矯正歯科なんでも相談では、「今矯正治療を受けないと、将来大変困ったことになるという説明を受けた。」というような相談もありました。そんなことは基本的にはないと思っていただいて良いかと思います。私自身も「矯正治療をやらないといけませんか?」と質問されれば、「矯正治療をやったほうが良い状態はあるが、やらなくてはいけないという状態はない。」と説明しています。

では、学校検診における歯並びや噛み合わせに関する通知は、どのようにとらえるべきでしょうか? 
社会人になった年齢でお見えになった患者さんが、「会社の歯科検診で初めて噛み合わせや歯並びの問題を指摘された。自分では、急に歯並びが変わったとは思えないのに。」と話されていました。

以前は、学校検診では歯並びや噛み合わせの指摘はしないことになっていたため、家庭には通知は行きませんでした。しかし、この患者さんは、「昔から悪かったのであれば早く治したかった。」とおっしゃいました。

軽度な歯並びや噛み合わせの不正では、学校検診でピックアップしないことになっています。逆に言うと、学校検診で指摘された歯並びや噛み合わせの異常は、それなりに悪いものだと思っていただくべきです。それでも虫歯と異なり、治療しなければならないというものではありませんが、適切な診断と治療法に基づいて矯正治療をすることによって、審美面だけでなく、噛み合わせや清掃性の改善が得られ、口腔衛生には大きなプラスをもたらすと信じています。

 

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